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Interview 火樹銀花

2025年5月、都内スタジオにてメンバーインタビューを決行!

リリース直前のthe superlative degree 2nd EP『火樹銀花』​について​​の

​曲や歌詞、レコーディングの様子、各パートのこだわり etc...を

いつもお世話になっている音楽ライター・杉江由紀さんに深堀りしていただきました。

――the superlative degreeにとっては現体制としての初音源であり、EP『導火』に続く第2弾作品でもある『火樹銀花』がここに完成したということで、おめでとうございます。今作を仕上げていくうえで重視されていたのはどのようなことだったのでしょうか。

 

章人:もちろん、前作での反省点を踏まえて作ったっていうのはあります。特に、俺と高瀬は久々に(音楽シーンに)戻ってきて作ったのが『導火』だったし、『導火』に入れた新曲たちはどれもthe superlative degreeとしてのライヴを始める前に作ってレコーディングしたものだったんでね。そういう意味では、そこから数は少ないと言えどもライヴをやって来て、その中で感じてきた「もっと出来ることがあるんじゃないか」みたいな思いを、バンドとしてかたちにしたのが今回の『火樹銀花』です。

 

――作曲をしていく段階で具体的に意識されていたのは、どのようなことですか。

 

章人:『導火』にはないタイプの曲を書こうみたいなことは別に考えてなかったけど、今後ライヴをやっていく時に欲しい曲を作ろうっていうのはあったかな。あと、前回はバンドサウンドと同期を混ぜていく部分で中途半端になっちゃったところがあったんで、今回は音の面でそこをもっと詰めていく必要があるなとも感じてて。だから、今回は曲作りをしたあとのレコーディングとか音質の部分でもさらにこだわったっていった感じでした。

 

――目指したい音の理想像がそれだけ明確だったのですね。

 

章人:ドラムの音も凄い上げたいけど、全部の音の分離も良くしたいっていうのはずっと思ってたし、わかりやすく言うと目指してたのは“日本のバンドっぽくない音”なんですよ。当然、日本語で歌ってるし日本でやってるバンドではあるんだけど、音の作りとしては自分たちが普段聴いているような音楽に近付けたかったんです。実際この音って、ドラムの音かなり大きいけど邪魔な感じはしないでしょ?

 

――全く邪魔には感じません。力強いドラムの音を軸にして、各パートのおりなすダイナミックな臨場感や、ライヴの場で感じるようなthe superlative degreeの持ち味が、あますところなく音源としてパッケージされている印象です。

 

章人:そこは今回エンジニアの上田さんともいろいろ話をしながら、日本のバンドがつい作りがちな“綺麗にまとまった音”にはしたくないよね、っていう意思をみんなが共通して持ってたんですよ。結果的にそこがクリア出来たときは、俺たちも凄い嬉しかったけど、エンジニアさんとか周りの人間たちもほんとに喜んでくれてた(笑)

 

――そういえば、いちはやく音を聴いたという大正谷隆氏(ex.HUSH~現・BMXX/子でびる隊変態支店)も、Xで「章人のバンドの新譜が何から書いたらいいのかわからないぐらいにマジでよくて、とにかくリリースされたら聴いてねしか言えない」と手放しで大絶賛されていましたね(笑)

 

章人:アイツが褒めざるを得ない出来になってたんでしょうね。あれ見て、俺も「来た!」って思いましたよ(笑)

 

宏之:いかにも隆さんが好きそうなド真ん中の音ですし、これ(笑)

 

――とにかくロック然としていますものね。今作には「邂逅」「雑踏」「花火」「秘密」の新曲4曲と、それにプラスしてBEAUTY MANIACS時代の楽曲をtsdとして再録した「fly」が収録されており、各曲ごとのカラーははっきりと違うのですけれど、全体的には良い意味での“オトナげない”スタンスが色濃く漂っているところに魅力を感じます。

 

章人:そこは音だけじゃなく、歌詞もそうかも。なんか、自分でも知らないうちに“汚い言葉は使っちゃいけない”みたいなのが刷り込まれてて、もうメジャーの世界からドロップされて20年くらい経ってるのに、どっかでそこに気を遣ってた自分に今回あらためて気付いたんですよ(苦笑)。今だったら何を書いたっていいし、何を歌っても誰かから怒られるなんてないのにね。聴き手がこういう詞はヤだなって感じることはあるとしても。

 

――なるほど。そこをこのタイミングで認識できたのはよかったですね。

 

章人:音や詞を作っていくのに何かに対して媚びる必要なんてないんだ!って思ったら、ほんと今回はいろいろスラスラ出て来た(笑)。時系列でいうと、「邂逅」はKENJIが入る前から既に曲としてあったんだけど、現体制になってから初めて作ったのが「雑踏」で、これなんかは自分でも「これは何のジャンルにあたるんだろう?!」って思うくらい、好きに作れたなって思う。

 

――何にも縛られることなく自由に作ることが出来た分、the superlative degreeとしての個性が今作ではより際立つことになったのではないでしょうか。

 

章人:うん、そこがけっこう重要なのかなと。結局それってほかのバンドがやってないことをやれてるっていうことだから。真剣に自分たちがカッコ良いと思うことをやれてる、という自信は凄くあります。

――今作からレコーディングに参加されることになったKENJIさんからすると、このたびの制作ではギタリストとしてどのような役割を果たしたいとお考えでしたか。

 

KENJI:これは長所であり短所でもあるんですけど、自分は普通のオーソドックスなギタリストなんですよ。そういう僕が、作曲者である章人さんのイメージしている音にどこまで近付いて弾けるのか?ということをまずは一番気にしてました。あとはそこに自分なりのエッセンスも加えていくようにしたんですけど、いずれにしてもシンプルな音にして欲しいというオーダーが基本的にあったので、そこも意識してましたね。ただ、大変は大変でした(苦笑)。SHINGOも、章人さんも、YUJIさんもいろんなアイディアをくれたのでいろいろ助かったところもあるんですけど、時には「えっ!こんな音でこのリフ弾くの??」っていう、自分の中にはなかったアプローチを求められる場面もけっこうあって、新しい挑戦をする必要があったんです。

 

――それだけに、今作には刺激的な音もたくさん入っていますよね。

 

KENJI:自分としても新鮮だったし、刺激的だったし、大変でしたけど、どの曲も楽しみながら弾きました。レコーディング現場に楽器も豊富に揃えていただいて、その中からチョイスをして音を作っていくことも楽しかったですしね。このバンドに入ったことで、とても良い経験をさせてもらえました。

 

――では、SHINGOさんが今回のレコーディングで実現されたかったのはどのようなことだったでしょうか。

 

SHINGO:前作よりも、今回はちょっとこまごまとした要素を入れたドラミングになったかもしれないですね。これまでどおり、フレーズとかは曲をもらった時点で決めていくことが多くて、その場でアイディアを章人さんからもらうことも多かったんですけど、そこから俺が自分なりに崩していったところもわりとあったというか。でも、章人さんが今回はそれを望んでたんですよね。だから、俺も「これは好き勝手していいんだろうな」という感じで叩きました。「雑踏」なんかもイントロからしてすんごい尖ってますから(笑)

 

KENJI:確かにあれはとんがってるよねぇ!まさに“オトナげない”音(笑)

 

SHINGO:そうなんですよ。あははは(笑)

 

――YUJIさんは、あらたなる相棒ギタリスト・KENJIさんを迎えたレコーディングで、今回どのようなことを感じられましたか。

 

YUJI:これまで感覚でなんとなくやってきた音選びとかを、KENJIくんは全て理路整然と解明してくれる人なんですよ。今まで曖昧だったところを全部ちゃんと整理してくれるので、自分がレコーディングしていくうえでもやりやすくなって助かりました。

 

――先ほど、章人さんから“全部の音の分離も良くしたい”との言葉があったように、今回はアレンジや音選びの段階で既にしかるべき対応がとられていたのですね。

 

YUJI:ギターのトラックもそうだし、音全体の解像度も上がったと思います。そして、僕もやってて凄く楽しいレコーディングでした。

 

――音の解像度という面では、宏之さんのベースも『火樹銀花』ではよりクリアかつ真の太い音として提示されているように感じます。前作とは聴こえ方が随分と違いますね。

 

章人:高瀬の場合はね、単純に1年前より上手くなってるっていうのも大きいと思う。前はもっとヘタクソだったけど(笑)、今回は凄い練習して来たなっていうのがレコーディングの時に聴いててもよくわかったんですよ。俺としては、やっぱりSHINGOのドラムと合わさった時にどれだけのグルーヴを出せるかっていうのが大事だと思ってたんで、事前に何回も高瀬に対して言ってたのは「余計なことはするな」っていうことでした。

 

――リズム隊としての基盤に徹して欲しい、ということだったわけですね。

 

章人:そう、それが「高瀬の仕事なんだから」って。SHINGOはもともとドラム上手いんで、高瀬がここに来て前より上手くなったことによって、リズム隊としてのバランスがとれるようになったんです。全ての曲の基盤がしっかりしたっていうのはデカいですよ。そして、高瀬が上手くなったことに関してはみんなも感心してました。

 

高瀬:いや、前回も練習はして行ってたんですよ?20数年ぶりくらいのレコーディングっていうことで、それなりに不安もあったし(苦笑)。でも、実は前回の方がレコーディングはすんなり進んだんです。逆に言うと、今回は前より章人さんもエンジニアさんも厳しかったですね。「あれ?去年はこんな感じでもOKだったのに?!」っていうことが、けっこういろいろありました。まぁ、もちろん前よりもっと良いものをっていうことでやってるわけだから当然ですけど、ほんっっとに注文が細かくなりましたね(笑)

 

章人:高瀬に対する注文が細かくなったのは、今回からドラムをLEVIN(La'cryma Christi)のスタジオで録るようになったことも影響してるんですよ。まずはSHINGOのためにドラム選びをしてくれるところから始まって、曲を聴いてチューニングもLEVINがやってくれて、エンジニアの上田さんが気持ち良くなっちゃうくらいクオリティの高い音が録れたから(笑)。それにみあうベースの音を求めたかったわけです。

 

宏之:順番としては、the superlative degreeのライヴでも何回かやってて一番自信のある「fly」から録ったんですけどね。なんなら、それが最もてこずったっていう事態になって大変でした(苦笑)

 

章人:俺は「fly」が一番難しいだろうなって思ってたけどね(笑)

 

――「fly」は途中にベースソロが入っていますので、その点でも手強かったとか?

 

宏之:あれがまたねぇ…何もない状況で録ったソロだったんですよ。あらかじめ作っては行ってたんですけど、その場で「違うものを作れ」と言われまして(苦笑)

 

章人:違うんですよ。このバンドが始まってから誰もOK出してないスラップを、高瀬が勝手に突然やりだしたっていうだけの話だから(笑)。さすがにそのままでは使える感じじゃなかったし、俺たちも「ねぇ。それ、もっとよくなるでしょ?」って言い続けて、その場で「ギターソロを作るような感覚でスラップのフレーズ作って」って注文したんです。俺たちが「これをこう弾いて」って指示したわけではなくて、高瀬の引き出しから出て来たものの中から最終的に「それ弾いて」ってなりました。

 

宏之:なんか「今風なの弾いてよ!」とか言われるんですけど、こっちとしては「今風ってなんだ??」ってなるじゃないですか(笑)

 

章人:そこは聴く側のことを考えてたんだよね。ベーシストが「渋くていいね」って思うフレーズと、ベースのことを詳しく知らないお客さんたちが「カッコいい」って感じるベースソロはきっと違うからさ。誰が聴いても「高瀬ってこんなにスラップ弾けるんだ!」ってなるような、わかりやすいソロを入れたかったんです。

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――あらゆる面で、今作『火樹銀花』にはthe superlative degreeが始動から1年半、初ライヴから1年で目覚ましい進歩と進化を遂げてきた、という事実が音として目一杯に詰め込まれていますね。おまけに、この作品は曲順も練られているなと感じます。

 

章人:そこも凄い考えましたよ。半分以上はSHINGOも考えてくれたし。「花火」はわりと早い段階からMVを撮ることが決まってて、「邂逅」もこのあいだ町田でライヴをやった時もトラブルとかいろいろあったのに、これを最後にやればなんとかなるくらいの強い力を持った曲だから(笑)、その2曲を軸として考えていった感じですかね。個人的には、時系列の面で「邂逅」と「雑踏」は回顧録としての意味合いも持った曲だったりするけど、「花火」はそんなに昔のことを書いてるわけじゃないから、そういう流れに沿った曲順もいいのかなと考えてました。

 

――そこから退廃的でグラマラスな「秘密」、アグレッシヴでハイテンションな「fly」へと続いていく展開はドラマティックにして濃厚ですね。

 

章人:5曲なんだけど、聴き終わった時には疲れるくらいの感じになってると思う(笑)

 

――SHINGOさんがこの曲順を構成されていくうえで、留意されていたのはどのようなことだったのです?

 

SHINGO:やっぱり、1曲目を何にするかっていうので悩みましたよね。今までだと俺がやってきたバンドでは、大体まず最初は激しいタイプの曲を持ってきたんです。でも、今だからこそこういう「邂逅」みたいな曲を1曲目に出来るんじゃないかと思って、今回はそこから激しめの雰囲気に持っていく、という流れもいいよな!となりました。途中で「雑踏」を1曲目にしてもいいのかな?と考えたこともあったし、何回か組み立ててみたんですけど、結果的にはあらかた章人さんと同じ意見でしたよね?

 

章人:うん、そうだったね。「雑踏」は最後にギター録りをしたから、曲の全体像が見える前に曲順を決定しなきゃいけないところが難しかったけど、この判断で良かったなと。

 

――なお、先ほど「花火」についてはMVを撮るとのお言葉がありましたので、ここからは「花火」をはじめとした各曲についてのお話もさらにうかがって参りましょう。そもそも、この「花火」はどのような背景を持ったものとして生まれたのでしょうか。

 

章人:詞の最初にある〈魔法が掛かったひとすじの光〉っていうのは、実を言うと俺が凄い好きなサッカー選手のキラーパスのことを書いてるんです(笑)

 

――そういうことでしたか。それは説明をいただくまでわかりませんでした(笑)

 

章人:そのあとに続く〈闇を引き裂いて時間を止めた〉も、〈君は駆けだして雄叫びを上げる 僕達は弾けて花火になる〉もサッカーの話なんですよ。でも、そんなの説明しなきゃ誰にもわかんないでしょ(笑)。俺としてはそこから歌詞として膨らませていって、花火っていうキーワードが出て来てからは花火の描写も含めて、自分らしい感覚を活かしながら書いていった感じでした。

 

――個人的には〈解けた意図はただキレイでせつなくて優し過ぎて〉というくだりの、〈キレイでせつなくて〉の部分が特に強く心に刺さりました。この曲の持ち味や特性が集約されているフレーズとなっているように感じます。

 

章人:自分としてもこれは“そういう曲”だと思ってますね。なんていうか…ロックを好きな人はきっとロックを一生聴き続けると思うし、ロックバンドの方も一生それこそ死ぬまで続ける人たちもいるんだけど、バンドとして正直なことをやろうと思えば思うほどぶつかりあいは出てくるし、中にはすぐなくなっちゃうバンドだっているわけでしょ。あと、こういうことを言うとお客さんたちに嫌われちゃいそうだけど(苦笑)、聴く方だって一生好きな曲があるとしても、たとえば結婚して子育てをしている間とか、仕事に追われてとかで、音楽を聴くのを忘れちゃう人も出てくるかもしれないし。要するに、人生っていろいろ儚い部分ってあると思うんですよ。

 

――自分の意思だけではどうにもならないことが出て来たりもするのが人生で、いわゆる永遠や絶対といった保障も伴わないのが人生ですものね。その儚さがあるからこそ、人生は美しいのかもしれません。

 

章人:そう、人生を花火にたとえてるんです。あと、さっき今回の『火樹銀花』は“オトナげない”音になってるみたいな話があったでしょ?俺からするとロックは“オトナげない”音で当然なんですよ。っていうか、オトナっぽいロックって何?エリック・クラプ●ンみたいな渋いやつ??そんなの俺、やりたくない。まぁ、KENJIはそういうのもやりたいかもしれないけど(笑)

 

KENJI:あははは(笑)。いやでも、僕はこの曲の〈極彩に染まるオモチャの東京〉っていう歌詞に凄い痺れましたよ。

 

章人:それは同じ田舎者同士だから響いたんじゃないの?

 

KENJI:田舎じゃないです、町田出身です(笑)

 

章人:三鷹生まれのYUJIはどう?痺れてない??

 

YUJI:あー、そうだなっていう感じですね(笑)

 

KENJI:そのへんの個人差はあると思いますが(笑)、でも「花火」は聴いた人それぞれのどこかには必ず刺さる曲になってると思います。

 

――そして、「花火」はKENJIさんのギターソロもエモいですね。

 

KENJI:よかった!そう言っていただけると嬉しいです。最後に「もうちょっと出来るだろう」っていうことで録り直した甲斐がありました。良いテイクを残せて幸せです。

 

――SHINGOさんは「花火」を叩いていく際、どのようなことを大事にされましたか。

 

SHINGO:この曲に限らず、大事にしてるのは基本のグルーヴです。ただ、この曲ではドラムソロのところで「花火みたいな感じにして」って章人さんから言われたんですよ。そこは何パターンも考えましたねぇ。しかも、前の『導火』の時からthe superlative degreeの曲って大体ドラムソロがどっかに2小節くらい入りますから。もう持ち合わせのパターンがなくなってきてるのもあって、ほんと大変でした(笑)

 

章人:SHINGOって凄いな!ってあらためて思ったよ。あのドラムソロ、ほんとに花火になってるもん。

 

――いっぽう、「花火」のベースについてはどこか“歌っている”雰囲気がありますね。

 

宏之:ほんとですか?ありがとうございます。

 

章人:グルーヴを出すために、この曲もけっこう厳しくやったからね。

 

宏之:常々そういうグルーヴを出したいなと思いながら弾いてはいるんで、そのアプローチが良い効果を生んだなら自分としても嬉しいです。

 

章人:とにかく、この「花火」はやりたいことを全部出来た曲ですね。キレイで切ない曲でシングル曲みたいなわかりやすさもあるんだけど、でも決してドキャッチーっていうわけではなく、ちゃんと詞に意味もあって、っていう“ロックバンドの作る良い曲”にしたかったから。KENJIが入ったからこそ生まれた曲でもあるし、これは多分うちらの周りの人もみんな好きな曲に仕上がったんじゃないかな。

 

――それから、話は前後してしまいますが。昨今ライヴでも強い存在感を放ってきた「邂逅」も、大変聴き応えのある1曲ですね。動と静が混在しているところも印象的です。

 

章人:歌詞が日本語だからどうしてもドメスティックには聴こえるだろうけど、音の方向性としてはNine Inch Nailsみたいなことがやりたくて作った曲ですね(笑)。詞の意味合い的な面では、俺がこのシーンに戻ってきてからのお客さんたちとか、エンジニアの人とか、周りにいる関係者とか、いろんな人たちとの邂逅を歌ってます。邂逅するまでの過程できつかったことも普通に書いてる。

 

宏之:これは章人さんだけじゃなく、僕にとっても「おまえもそうだろ?」って言われてる歌詞だなって思いましたね。

 

章人:流れとしては、邂逅したあとのこれからが見えるようにするために、KENJIのギターソロから一気に曲が拓けて“動”に転じさせてるところも大事なところなんです。

 

――前半の“静”の部分で聴ける、SHINGOさんのリムショットも好きですよ。

 

章人:あのリムショットも今回けっこう研究したもんな。前回の「アイデンティティコード」の時よりリムショットが進化してると思います。

 

SHINGO:うん、そこはこだわりましたねぇ。

 

KENJI:俺はイントロのアルペジオも好きなんですよ。あれはライヴでもともとやっていたかたちからはちょっと変わった部分で。自分はどうしても音を詰め込みがちなので、あそこまでのシンプルなフレーズで、しかもアコギでっていう発想はなかったので、さすがだなぁ、潔いなぁって感じました。

 

YUJI:ずっと2音だけのターンだからね(笑)

 

宏之:こういう曲でライヴで最後の最後をしっかり締めくくれたりするのは、曲によってオトナげない音も出しますけど、バンドとしては我々がちゃんとオトナになってる証拠なんじゃないかと思います。

 

――さて。次は2曲目の「雑踏」についてのお話もうかがいたいのですが、この詞は〈東京23区その片隅〉という1節から始まります。ここでも東京がキーワードなのですね。

 

章人:上京してすぐ、俺は当時やってたバンドが人気絶頂だった時に大きな挫折を味わってるんでね。このことはずっと言葉にしちゃいけないみたいになってたところがあったけど、曲の中で書くんだったらいいかなと思ったわけです。この詞の中で最も重要なのは〈オレは意味を探す オレの意味を探す〉っていうところで、三鷹生まれのYUJI以外うちのバンドはみんな音楽をやりに東京に出て来てるから…

 

KENJI:えっと、さっきも言いましたけど僕も東京の町田出身です(笑)

 

一同:(笑)

 

章人:まぁだから(笑)、俺らは生まれ育った場所も好きだけど、東京っていう街に対してはまた違う思い入れがあるんですよ。東京で負けちゃいけないとか、そういう思いも持ってきたし。昔、高円寺の雑居ビルみたいなところに住んでた時は屋上があって、そこからは新宿のビルがドーンって見えてて、なんか漠然と「東京っていうこの場所で1番になれるのかな?」みたいなことを感じたこともありました。

 

――東京は多様性にあふれた街で、もはや人種のるつぼでもあり、さまざまな人々が夢や野望を抱えながらやってくる街であり続けているのでしょうね。

 

章人:別に音楽を志してるミュージシャンに限らず、いろんなことに対して頑張って生きてきた人たちに、今も頑張ってるんだったらぜひ聴いて欲しいです、この「雑踏」は。あるいは、頑張ってた頃の気持ちを忘れかけてる人たちにも聴いて欲しい曲ですね。

 

――「雑踏」は強い意思をたたえた歌詞と、バンドの醸し出すダイナミズムが見事に融合している曲だと感じます。

 

章人:音的には、今回この曲で初めて変則チューニングを使いましたよ。弾きやすさとかも無視して作ってるから、弾くのは大変だったと思います。

 

KENJI:いやもうほんとに(苦笑)。ギターのリフを章人さんが持ってきてくれた時、いろんなポジションで弾いたりするんですけど、結局はYUJIさんと2人で合わせることになるじゃないですか。まぁ、難しかったですねぇ。

 

YUJI:(無言で頷く)

 

宏之:最初は俺も「人間が弾けるやつなんかな、これ?!」って思いました(笑)。それでも、ちゃんと最後はふたりとも弾けてたから「凄いな、人間って」って感心したんです。

 

章人:KENJIのギターソロも「絶対スウィープやって!」って頼んだしね(笑)

 

KENJI:いきなり「速弾きしてくれ」って言われて、それは面白かったです。ほんと、あんなフレーズ弾いたのは久しぶりでした。

 

――ドラムについては、フロアタムの使い方をはじめとして全体的に荒ぶった“やんちゃ感”が出ていますね。

 

SHINGO:そうなんです、相当やんちゃっすね(笑)。疾走感を大事にしてます。

――かと思うと、「秘密」は一転してグラマラスなロックンロールの風合いが曲を彩っていて、これも大変興味深い仕上がりです。

 

章人:グラムっぽい感じのノリに同期をからめた曲になってるんで、ここにもNine Inch Nailsの影響は出てるんでしょうね。だから、ドラムもベースもギターも、同期に合わせてシビアにスクエアには録ってるんですよ。それでも完成した音は、これだけ生々しく聴こえてくるっていうのが良く出来たところだと思います。ただ、みんなは俺が曲を持って行った時グラムっぽさはあんまり感じてなかったみたいで、なぜかMETALLICAっぽさを感じてたみたいです(笑)

 

――解釈の違いが当初はあったのですね。

 

章人:歪んでる音はどんどん使っていきたいし、メタルっぽさも凄い必要なんだけど、かといってthe superlative degreeでは普通にメタルバンドみたいなことはやりたいわけではないんでね(笑)。そこをメンバーに説明する必要はありましたけど、やっぱり「KENJIってギター上手いんだな」って思ったのはこの曲のバッキングで凄く良い仕事をしてくれたところなんですよ。

 

――といいますと?

 

章人:いわゆるバッキングの部分もだけど、聴感上では聴こえないようなところまでこの曲では全部KENJIがやってくれたんです。その効果によって高瀬のベースの音も引き立つことになったし、YUJIの弾いてるパートも、俺の歌も、SHINGOのドラムも、全てトータルで“聴かせる”音作りをしてくれました。

 

――と同時に、この曲はギターソロでのエフェクティヴなアプローチも面白いですね。

 

KENJI:この曲ではソロで遊ぼうと思ったんです。みんなにも一応聴いてもらいつつ、章人さんにもアドバイスをもらいながら、エフェクトの部分はYUJIさんの方が得意なんで、フィルターのかけ方に関しては相談もしましたね。そうそう、リフの方はYUJIさんが弾いてます。

 

YUJI:この曲は仕込みが大変過ぎたんで、レコーディングで弾いた時のことはあんまりよく覚えてません(苦笑)

 

――そうなのですね(笑)。あの少し気怠い雰囲気のリフ、とても心地よいです。ドラマーであるSHINGOさんとしても、この「秘密」では絶妙な重さを出していくという意味で腕の見せ所だったのではありませんか。

 

SHINGO:これはエンジニアの上田さんから「ロッケンロールで叩かないでね」って言われたんですよ。重く気怠く聴こえるんですけど、実はタイトに一定に叩いてます。

 

――そうだったのですね。やや意外かも。

 

章人:こういう曲は、逆にスイングせずにスクエアに叩いてもらった方が面白くなるんじゃないかと思ったんですよ。

 

SHINGO:おまけに、LEVINさんがセットしてくれたスネアがベロベロでしたからね。あれには驚きました。で、「SHINGOちゃん、これリムショットしたら成立しないチューニングになってます」って言われたんです(笑)。そういうドラムでタイトに叩くと、ああいうなんとも言えない重さが出るんだって勉強になりました。

 

章人:ある意味、ドラムに関してはこの曲が一番技術が必要だったかもね。

 

SHINGO:他の曲は感情表現が重要なんですけど、この曲は歯を食いしばるような忍耐が必要だったんですよ。凄い神経が疲れた気がします(苦笑)

 

宏之:僕もこの曲は「ロックンロールっていう解釈では弾かないで欲しい」って言われたんで、そこは意識して弾きましたね。ドラムがそういう感じでタイトだったんで、そこにかぶせていくようにしていったところもありました。

 

――かくして、今作『火樹銀花』は5曲それぞれに鮮やかな個性をもって作品へと仕上がりました。そこにこのタイトルを冠した理由についても教えてください。

 

章人:おそらく、ググると火樹銀花っていうのは“町の灯りや花火の光が輝く様子。または、夜景を言い表す言葉。”みたいに意味が出てくると思うんだけど、自分の中で今回の作品は夜とか夜景みたいなイメージが強かったんです。これは前から知ってた言葉だったわけじゃなく、この作品に合う言葉を探して見つけた言葉ですね。

 

――わたしも初めて知りました。意味合いもさることながら、文字面も素敵です。

 

章人:今回、「花火」はリードトラックっていうわけではないにしてもMVを撮るし、そのイメージも踏まえつつ、今回の曲たちはどれも情景が見えてくる曲たちだから、この言葉が合うしいいかなと思って。それに、ミュージシャンじゃなくても人として生きてるからには、誰もがずっとキラキラしていられた方がいいからね。光を追いかける側よりは、自らが光って輝いていられる人生の方がいいんじゃないかなぁと思うんですよ。

 

――ちなみに、そのような想いが託されている今作ではアートワークをGOATBEDさんが手掛けていらっしゃるそうで、そこもなかなかの話題性がある点ですね。

 

章人:はい。秀仁(=石井秀仁 cali≠gari/GOATBED)が「やりたい」って言ってくれたんですよ。凄い応援してくれてるんです。

 

――なんでも、最近はプライベートで章人さんと秀仁さんは一緒にいることが多いそうではないですか。

 

章人:かれこれ30年くらい前からお互いのことは知ってたんで、そこも実は邂逅なんですよね。俺がこうして帰ってきたことによって、また交流が復活したみたいな。今は異常に仲良いです(笑)

 

――仲が良いついでに、来たる9月12日にはGOATBEDさんとthe superlative degreeによる新宿ロフトでの2マンライヴ[TSDGB]も決定したそうですね。

 

章人:当日はうちがGOATBEDの「コミュニカシオン」、GOATBEDがうちの「アイデンティティコード」をお互いにカバーした2曲入りCDを無料配布します。

 

――そちらも今から楽しみですし、近いところでは6月21日に高田馬場 CLUB PHASEでIMOCD!との2マンとなる[Field Arrow Presents “PARADOXIC 2025”]も控えておりますので、ともに期待がかかります。きっと、『火樹銀花』がリリースされてからのライヴは空気感も変わっていきそうですよね。

 

章人:そうあって欲しいなと思ってます。俺たちは純粋に良い音楽を掲示して、みんなに聴いて欲しいって思ってるだけだから。出来たら、CLOSEのお客さん、Gallaのお客さん、JURASSICのお客さん、ALL I NEEDやHUSHのお客さん、過去に俺たちの音に触れたことがある人に全員まずは聴いてみて欲しいですね。聴けばこの“死んでない”感じは絶対伝わると思うから。高瀬のベースにしたって、当時みたいに戻ったとかじゃなくて今や20年前より全然上手いしね(笑)。SHINGOだってこれだけ上手いのに、いつも限界まで挑戦してるんですよ。もういい年なんだからのんびりやろうじゃなくて、いい年だからこそしっかりやろうよっていうバンドなんです。

 

――素晴らしいスタンスだと思います。

 

章人:“オトナげない”とか以上に、今をちゃんと生きてるっていう音そのものなんです。the superlative degreeの音楽は。

取材・文/杉江由紀

©2023 the superlative degree オフィシャルサイト

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